遊ぶことは良いことだ。

働き始めたら嫌でも現実に向き合わなければならない。それまでの短いモラトリアムを、仕事のことを考えて過ごすことほど馬鹿なことはない。遊べばいい。

しかし、遊びながらでも心に留めてほしいことは、次の職場で、自分をどのようにイメージしてもらいたいのかのデザイン構築だ。

転職初日のイメージは消えにくい

自分とかけ離れた仮面(ペルソナとも言う)をかぶると、仮面が剥がれたときがしんどい。

かといって、職場は学校でも家庭でもない。よそ行きの顔ができなければ、バカにされ、軽蔑の対象となることがある。

自分を偽りたくない、という人もいるだろう。正直な自分を出せと勧める評論家や作家もいる。しかし、その考えは捨てるべきだ。

自分をさらけ出せ、と勧める人間は、よほど自分自身に魅力のある人間なのだろう。あるいは他人からつけこまれたことのない人間なのかもしれない。いずれにしても、人間関係で苦労をしたことがない甘ちゃんである場合が多い。

いざ人間関係が壊れると、修復するのに手間取る(「職場の人間関係をこれ以上悪化させないために」を参照のこと)。世の中には他人の欠点をどうにかして見抜いて、相手をバカにしてやろうとか、相手より優位に立ってやろう、と思う性根の腐った人間が数多くいる。彼らにつけこまれれば、自分が傷つく。それが嫌なら、自分を装うことは必須スキルと言える。

転職初日くらい、まともな人間は小綺麗な格好をする

以前の服装自由な職場に、ヨレヨレのシャツばかり着ていた人物がいた。

40代で資格をいくつか持っていながら、どこにも長続きしなかったという。

性格も悪くなさそうだった。

本人曰く、せっかく服装自由な職場にいるのだから、その自由を味わいたいのだそうだ。

最初はそれがおかしいと思わず、ユニークな人だと好感を覚えた。同期入社して仲良くなった彼とは、仕事のことでよく話をした。これだけ高スペックなのに、受け入れてこなかった彼の以前の職場がおかしいと思い、彼の前職への愚痴につきあった。

ところが、同期の同僚女性をストーカーしていたために彼は辞めされられてしまった。

彼がクビになったあとに、ストーカー行為を知って驚いた私に、同僚の女性が冷たく言い放った。

「あの人、もとからおかしかったでしょ。入社日初日に汚いシャツ着てて、噂になってたじゃん。あの人と仲良くしていたあなたもおかしいと最初思ってた」
「……」

彼がストーカーしていたことと、彼の服装がおかしいことを結びつけるのはおかしいと思ったものの、彼の異常性は服装から見抜ける、と言い放った彼女の理屈にも一理ある。それ以来、服装に注意すると、たしかに服装がだらしない人物は、バランスを取れない人が多い。

小奇麗な格好で周りに不快感を与えないのはマナーの一つ。それを嫌だ、小汚いままで出社してもいいんだ、とあなたが思い込んでいるなら、あなたはエゴイスティックだ。自分が異常かもしれないと、自省してみた方が良い。

清潔感のある服装でいるのは最低限の心遣いだ。それに抵抗感を覚えていようと、身だしなみを整えることで、まともな自分を装うことになる。

転職初日くらい、へりくだること(謙譲)は必要

へりくだることだとか、謙譲という姿勢だとかは、日本人に特有の行動だと嫌うひとがいる。欧米人はもっと自己主張する、それに比べて日本人はバカだ、というわけだ。

ところが、『Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』という本によれば、アメリカのGoogleのような外資中の外資企業ですら、コミュニケーションで必要なものは謙譲だという。

考えてみれば、アメリカ人がよくやる、誰にでもフレンドリーに対応したり、いつでも笑顔でいたりするのは、自分をぐっと抑えて、相手に迎合する行為だ。

ときには嫌な相手もいるだろう。異人種に不快感を覚える人もいるだろう。それでも、表面上はそれを見せずに、相手にフレンドリーに接するのが欧米流の謙譲と言える。

要は表現の仕方が違うだけで、文化の違いであり、欧米人が謙譲という姿勢を重んじないわけではない。

「謙譲」という姿勢を評価するのが世界共通の当然のマナーの一つだとしたら、人類であるあなたが転職先でへりくだらない理由はない。

性格が傲慢だとしても、初日からしばらくは、周囲に譲る姿勢を見せるほうがいい。そうした方が、余計なトラブルも防げる。

転職初日は30分前に職場近くに到着するべし

数時間前に出社する必要はない。しかし、転職初日に遅刻するのは絶対に避けてほしい。

人間の体内時計は25時間周期だという。だから、本能にまかせていていは、人間は必ず時間の感覚にずれを生じる。だから、時間に正確であることは、誰もが苦労しながらやっていることだ。

体内時計が狂いやすいから、誰もが時計を時々ちらっと観ながら、自分の感覚を調整している。その努力を怠る人間、ちょっとした努力の積み重ねでできることをやらない人間を、人は嫌う。

高度な努力ができないのは仕方がない。しかし、ほんの少しの努力すらできないのは、単に怠惰なだけだと人間はみなす。時間を守らないということは、怠惰に分類される。

よって、転職初日は絶対に遅刻しないつもりで挑むべきだ。

電車が遅れるかもしれない。自転車で通勤していても、途中でパンクするかもしれない。

こうしたリスクを省くためにも、早めに出社して、近くの喫茶店で休むくらいの努力はした方が良い。

少なくとも、出社1時間前に出社するつもりでいれば、遅刻することもあるまい。しかし、それが無理だという場合でも、30分前の出社はマストだ。

目立たずに周囲を観察せよ

ものの本によれば、同期入社した仲間を出し抜くために、当日から同期を出し抜いてガンガン質問したり、何事も率先してやったほうが良い、と説くものもあるらしい。そして、それをやったから自分は出世できた、と得意気に話すひとも多い。

ところが、こうした話は生存バイアスというものであり、同じ行動で失敗した人の話は残りにくい。

私の観察では、同期と異なる突飛な発言をしていた人間は、むしろ出世せずに落ちていった方が多いように思う。有り体に言えば、同期と異なる発言や行動をしている人間は、優秀であるより、無能で空気が読めない人間である可能性が高いせいだろう。

孫子曰く、

相守ること数年、以って一日の勝を争う。
而るに爵禄・百金を愛みて敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。
人の将に非ざるなり。主の佐に非ざるなり。勝の主に非ざるなり。

だそうだ。

つまり、ライバルの情報を知ろうとしない人間はリーダーの資格がない、ということだ。

情報を得るためには周りを観察することだ。同期入社した人を出し抜くためにも、あるいは入社したばかりの職場の環境を知るためにも、まずはおとなしくして周囲をゆっくりと観察する、というのは出世のための態度と言えるのではないか。

周囲を観察しない人間が失敗するのは当然ではないか。

目立たず周囲に合わせるのは面倒なことだが、自分の素を出したいなら、他人を出し抜いていきたいなら、数ヶ月後でも良いじゃないか。転職して数週間くらい、人間観察に費やしてもバチは当たらない。

転職当日には、メモ用紙を用意していく

スマホ世代にとっては、メモはスマホのメモ帳などに打ち込むもの。メモを取るという習慣すら無いだろう。

ところが、日本企業では、私物のスマホを仕事中に使うことを嫌うところが大半だ。情報保全の観点から、外資系企業でも私物スマホを仕事中に使わせないことも多い。

しかし、記録しなければならないことはたくさん出てくるので、それに対応するためにも、メモ用紙を用意しておくべきだ。

メモ帳を用意してもいいが、私物のメモ帳の持ち込みを嫌う職場も今は多い。ただ、A4のメモ用紙ならば、そこにメモすることをダメだという企業はほぼない。そして、A4のメモ用紙があれば、大抵の指示は書き込める。

メモする謙虚な行動を取れるかどうか、上司が気にするところでもある。評価を受けたいならば、こうしたところで他と差をつけたほうが良い。


 

以上のような行動は、自分を偽り、無駄に会社に媚びることだと反感を覚えるひとがいる。

しかし、上記の行動は最低限のマナー。それすらできない、自分を偽れない人間は、自分自身の価値観を疑った方が良いだろう。